オリンポスの女神 その22015年06月17日 21時11分


(写真は、蓼科・女神湖。 あくまで、イメージです)

久しぶりに、この森に来た。
残念ながら修理中のメイン機は持ち出せなかったが
フラグシップの名を持つ銘機と優秀なレンズは健在だ。

光と影をファインダーにおさめながら、奥へと進む。
湖畔に差し掛かった頃、三脚を準備した時だ。
「!」 
ほんの一瞬、掴んでいたハズのストラップが
指の間からすり抜けていく。 
スローモーションにも見えた瞬間、 
カメラとレンズは、その深淵の中にユラユラと沈んでいく。 

「しっ、しまった。またやってしまったぞ。」
ガックリと膝をつき、その深き蒼い淵を覗いても、もう見つからない。 
撮影中止以前に、大切な道具をまた失ってしまった。
 
時間が止まる。 思考も止まった。 途方に暮れるとはこういう事だ。

湖面から視線を上げると、湖面に1筋の光が見える。 
その瞬間、青と白いベールに包まれた女神が立っていた。 

神々しいその姿に思わず立ち上がる。 
ああ、あの女神は!?
数年前に出会った、彼女ではなかったか?

「どこの誰じゃ、こんな場所に不法投棄をする、不埒者は!」
暗雲立ち込め、雷鳴が轟く。辺りは曇天と化していた。

「ふ、不法投棄なんてっ。カメラを落としてしまったんです」
彼女の逆鱗に触れたのだろうか、恐れおののきながら、説明する。

「お前か、あれを落とした者は」
「は、はい。すいません。不注意で」

その瞬間、曇天の合間から、幾筋かの光芒が湖面を照らし始めた。
「そうか。ちと、演出が過ぎた様だ」さっきの雷は演出ですかい?

「大切なカメラとレンズを落としてしまったんです。
 できたら、なんとか拾いたいんですが」というと意外な言葉が、彼女の口からでる。

「次は・・松のカメラ、竹のカメラ、梅のカメラ・・・と続くと思っておろう?」
「いや、そんな事は。兎に角、自分のカメラを」・・・心を見透かされた様だ。

「残念ながら、そなたのカメラは、もう誰も手が届かぬ所にいってしまった」
「そこをなんとか?お力を貸してください」

しばらく、視線を湖面に落とし、佇む女神。
「では、物々交換なら、応じて進ぜよう」
「ゑ、なんですの、それ??」

少し驚いた表情で、こちらを見る女神。
まじまじと見ると、やはり神々しく美しい。
ただ、ちょっと言葉がアレだけど。

「物々交換じゃ。価値の同じモノとモノを交換する儀式ぞ」
儀式っていったい。

「じゃ、落としたカメラとレンズに匹敵するモノ・・・を頂けるのですか?」
すると、彼女の手には、いつの間にか新しいレンズが現れていた。

「そ、そのレンズは?」黒く光る胴鏡に青とシルバーのライン。
「小型ながら、最も新しい、ガラス玉の化身ぞ。」
て、それ、7-14mmPROなんじゃね?

「じゃ、いいです、それでお願いします♫」
渡りに船だ。E-5と12-60mmSWDを失うのは仕方ないが
なんとかあのレンズを手に入れたい。

「良いですとは、何事ぞ・・・まあ、良い。しかし、それでは、価値と価値が合わぬ」
「え、カメラとレンズでは、交換できないのですか?」
「少々、そなたものは、古きモノであった。価値が下がっておろうの」

ちっ、よく分かってるな。何か手はないだろうか?

「レンズを。」
「え?」
「レンズをもう1本、投じるのじゃ」
「どういう事でしょうか?」
「価値と価値が同じモノでなければ、ダメと申したであろう」
つまり、さっき落としたE-5じゃ不足ということか。しっかりしてるな。

「じゃあ、12mmLimitedBlackという小型レンズでよろしいでしょうか?」
「よかろう」
女神の承認を得たので、湖面に向けて、黒い胴鏡を投げ込む。
放物線を描き、落ちた先に波紋が広がり、沈んで行く。
ていうか、これ不法投棄じゃ?

「女神さま、そろそろ、そのレンズを受け賜れますか?」たぶん日本語が間違ってるかも。
「慌てるでない。そなたの写真機なるものは、修理中ではないのか?」

なんで、それ知ってます?

「なぜ、その事をご存じで?」
「なんでも、わかっておる。そなたの会員番号は34XXXXXXじゃ。
 個人情報だから、伏せ字にしておいたぞ。
誰も周りにいませんが・・・微妙な気遣いありがとうございます。
「そうそう、「ぷれみあむ」という階級になった様だな。贅沢なやつめ」少し微笑む彼女。
それにしても、ありとあらゆる情報を一瞬にして手に入れられる様だ。

「いや、ですが、カメラも明後日には帰って来る予定ですし、そのレンズを!」
こうなったら、懇願してでも、持ち帰りたい。

しかし、厳しい答えが待っていた。
「ならぬ。あと10日ほど待つが良い」
そんな待つの?
「10日もですか?」えー。

「それと・・・」続ける女神。
「え、まだなにか?」言い足りない様子だ。

「・・・お布施が足りぬ。」
「へ?」

「まだ、そなたのモノと私のガラス玉の価値が合わぬ。依って、お布施をするが良い」
「今ですか、持ち合わせがないんです」お布施って、お布施ですよね?
「そんな下界の下世話な話はせぬ。10日後に用意しておきなさい」

光の中に消えていく、彼女。
やはり、以前、沼?いや湖で会った、女神ではなかろうか。
あるいは夢だったのか?

10日後、果たして、あのレンズは来るというのか?
お布施って、お金って事?

カメラを失い、レンズを失い、半信半疑だが
これ以上撮影もできない。撤収だ。帰ろう。

身支度を調え、帰路につく。
と・・・湖の端に差し掛かった時
ひとりの男が現れた。

武道家の様な、あるいは作務衣の様な出で立ち。
屈強な体つき、大砲レンズを使いこなすカメラマンの様にも見える。
しかし、その胴着には「瑞光」と書かれていた。ず、ずいこうですか?

「そこのおぬし」雲爺じゃって言わないだろうね?
「は、私ですか?」
「少し、話さないか?」
人なつこい感じで、話かけてきます。

「ええ、良いですけど、もう、帰る所なんです」
「そう言うな。欲しいレンズが手に入らず、ふて腐っておろう」

「な、なんでその事を?」
まさか、女神さまと同じ超常的な方?

「ほほほっ。なんでもお見通しじゃ」
それ、説明になってませんけど。

「その胴着、『瑞光』と書いてますけど、お名前ですか?」

そういえば、「瑞光寺」って聞いた事がある。そこの住職じゃないだろうか?
瑞光とは「吉兆を表す光」の事だ。彼も神の化身か?

「今は、「志熊」と呼ぶが良い」
「えっへっ? シグマ?」
「ばっかもーん。『老師』、ろ・お・し、じゃ」・・・ろ、老師って?

「じゃ、シグマ老師、さん?」
「そうじゃ」
「『瑞光』さんじゃないんですか?」
「今は、本業と違うのじゃ。ええい、細かい事を気にするなっ」はい、分かりましたっ。

「で、御用向きはなんでしょうか?」
「うむ。おぬしに、薦めたいモノがあってな」
て、なんですの?

目の前に、小さな黒い胴鏡が3つ現れる。
それって、手品ですかい?

「ここに、19mm、30mm、60mmという名のガラス玉がある」
「ほうほう。」これは、単焦点レンズだな。

「それぞれが違う画角・・小三元的なモノであるが、どれが好みか?」
「いや、好みと言われても、ズームレンズな人ですし、単焦点はイッパイ持ってるしい」
言い訳がましく言うと、グイと近づきながら、老師が言う。

「はっきりせん奴じゃ」
売り言葉に買い言葉。それならば・・・
「いや、実は、30mmのレンズは持ってます。
 19mmはちょっと、自分的には使える範囲が少ない。
 M.ZD60mmMacroは持ってますが、マクロレンズなので、頂けるなら60mmです!」

「うむ。」といいながら、目をつぶる老師。
しばらく待つ。何も言わない。どうしたいっ?

「老師・・ん、で?」
「ん?なんじゃ?」寝てたんか〜い。

「で、レンズを貰えるんですか?」
・・・・
「た、戯けもの!レンズを貰えるですか?と、どこまでお前は図々しいのじゃ」
ぎゃ、逆ギレですの? 話し方が波平さん的だな。

「いや、すいません。そういう事じゃないんですね」あーびっくりすんなコノ人たち。

しかし、ニヤリと笑って、老師が囁く。
「だが、今なら、ポイントが使えるぞ」
な、なんだそりゃ?

「ぽ?ポイント?」
「そうじゃ、60mmが欲しければ、ポイントを使うが良いぞ」

ポイントって、ヨド◎シか何かの?
頭の中で、グルグル考えていると、老師の姿が消えて行く。
気がつくと霧が立ちこめて来ている。

「それでも、おまえはお布施が必要じゃ。ポイントだと足りぬからな。
 キチンと、お布施をするのじゃぞ〜〜」とフェイドアウト。

気がつくと、白い箱を手にもっていました。
箱には「SIGMA 60mm F2.8 DN」と書いてありました。

この湖には、しばらく近づかない事に致します。

(今回のブログは、殆どががフィクションです(爆))



コメント

_ どこ。 ― 2015年06月17日 23時35分

色んなネタが満載で、面白かったですよ。
家族が寝静まる部屋で、一人でクスクス笑っちゃいました。
このシリーズ、新しい何かが導入される度に続くと良いなぁ。^^

しかし、オリンポスの女神・・・良い神なんでしょうかねぇ。
7-14mmが来てからですね、邪神かどうかの判定は。( ̄ー ̄)

そして、志熊老師に導かれ、60mmをIYH!おめでとうございます。
ポイントで気持ちをグイッと引き寄せつつ、お布施も出させると言う話術・・・。
さすがですね、老師は。

_ 時計好き ― 2015年06月18日 01時24分

う~む、湖の女神なのか商売の女神なのか、そしてまた、カメラを落としてしまった男が殊勝なのか罰当たりなのかも判断に苦しみますが私は好きですよ(^^ゞ

_ MOTO ― 2015年06月18日 23時56分

>どこさん&時計好きさん
久々のシリーズ?復活です。
展開とオチと、自分の最近の事をどう絡めるか?
考えると結構たのしいんですが、文章にするのは
結構難儀です(;^_^A

瑞光老師がなぜ志熊老師になったのかは謎ですが
たぶん、今ブームなんだと思います、彼も。

湖の女神?たぶん、沼ですよ。

_ M2pict ― 2015年06月19日 12時35分

同じ焦点距離とF値のレンズを、、、漢気感じます(^^
描写傾向はだいぶ違う気がしますから、マクロ域を除くと志熊老師の導きも間違いないのかとw
このシリーズ、1本いっときたいんですけど、、、また考えよう。

_ ― 2015年06月19日 20時58分

今回のブログ、見事に引き込まれてしまいました。
写真もお上手なのに文才があるだなんて…MOTOさんズルいです!(笑)

_ MOTO ― 2015年06月19日 22時30分

いやいや、豆さん。文才はないですが(^_^;
これ、ほとんどコントですよねw

フィクションといいつつ、ノンフィクションなのですが(笑)。

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