オリンポスの女神 究極の進化形2022年03月18日 20時00分


あれから数日経ったある日。

一通の白い封書が届いた。
裏を返すと「高千穂峰・御凜蓮神社」の文字がそこに。

あのショッピングモールの隅っこにちょっとだけ置かれた小さな社。
流石にアレは無いと思っていたが・・・開封して中を見る。

年末や夏の大祓なら紙の人型でも入っていそうだが
中には遷宮と神事のお知らせの内容の紙が1枚。

なになに・・・
『高千穂峰・御凜蓮神社は、令和二年に一部分社を元社の場所に置く。
 ○○神社内に末社として遷す事が決定し、令和四年如月吉日に遷宮神事を行う・・・」云々とな。
折角の神事だ、これも何かの縁、一度参拝してもいい。
平成最後の神事も逃しちゃったしな。

電車に乗って、神社へ。
近くには旧街道から国道に変わった主要幹線。
それなりの大きな街だけど、都心とは違ってどことなく垢抜けてない。
駅から続く参道を見ると、大きな神社の様だ。
きっとその中に一緒に祀られるのだろう。

(写真はあくまでイメージです)

一礼すると鳥居を抜け、社を探す。
それにしても人がほとんどいない。
神事にしては、氏子の姿も見えない。

大社の少し前、四角いエリアが確保されているが
周りは注連縄で囲われ、紙垂(しで)が付けられている。
中央には、新御敷地の様に小さな小屋が置かれていた。

遠くに社務所が見えるが
白い看板が眼に飛び込んでくる。
む?
『末社造営・御凜蓮神社 遷宮神事は、感染防止対策のため、オンラインとなりました』
ゑっ、へええ〜〜?
ここまで来たのにオンラインですの? んじゃ、神事取りやめですの?
あまりもショックに何しに来たのか、自分でも混乱する。どゆこと。

続けて見ると、文章の先に小さく
「VR参拝と御朱印の方はこちらへ」と地図が示されている。
オンラインなら自宅でいいけど、なんとVRか。
とりあえず、地図を見て、進む。

するとプレハブでできた社務所だろうか。
入り口を中にはいる。
受付では、感染対策いや濃厚接触者関連として
連絡先や住所を書く事になる。うーむ、めんどい。

書くのを躊躇っていると、巫女さんらしき方に
今は空いているからと、中へ促された。
個室にしては大きなブース。
机にはVRゴーグルと、VRグローブか?

○にXと床に書かれた場所に立つと、音声が案内された。
指示に従い、VRゴーグルを装着。眼鏡でも大丈夫なサイズだ。

遠くで「それでは始めます」という声がして、VRゴーグルが起動された。

         *************   

真っ暗だったスクリーンが、全空間表示となった様な錯覚。
見ると、歩いてきた参道が前に続いている。その先には大社(やしろ)。
先ほどの「新御敷地」がズームアップされ、スポットライトが当たり始める。

遥か上空から次々と降りてくる太い柱。
垂直に立ち降りた後、木造の社が、次々に出来上がっていく。

○HKかなんかで紹介される、神社やお城の構造CGにもあるやつ。
XX大学建築工学科監修なんて言葉がどこかに入るのだろうか。

音響と伴に、組み上がっていく社、完成した後には後光の様に金色に輝いている。
ナレーションが「それでは参拝頂きます」と。
まるで自分が空間を歩いている様に、スムーズな移動と伴に
VR空間の社の正面に立っているかの様な映像だ。

「VRグローブで、鈴をお鳴らしください」ナレーションに誘われる。
目の前には麻縄が垂れており、その上には金色の鈴。

ゴーグル越しに、自分の手を確認し、VR空間の縄を掴み、揺らす。
リーンという音がゴーグルを通して、耳に聞こえる。
うーむ、なかなかこの映像演出は手が込んでる。

「それでは二礼二拍手を」再び促される。
リアルな現実では、自分がゴーグルを掛けたまま
部屋の真ん中の何もない空間に頭を下げているのだろう。
そんな事を思いながら、静かに手を合わせ、参拝をする。

何をお願いする?いや、お願いというより
神社が潰れず、遷宮された事を感謝すべきか。

ゴーグルの中で、自然に眼をつぶっていた。数秒、いや数十秒?
目を開けると社は消え、大きな、数100mある様な湖の中央に自分がいる。

遠くに陸地の様なものは見えるが、自分も浮いてるのだろうか?
快晴の空にも見えるが、雲の立ちこめている。
もしかした空にいるのかもしれない。

(空のイメージです)

静かに響くような声がする。
湖?いや蒼い空の中央に、小さく人が見える。
それが段々近づいてくる。いや自分が近づいてる?

白い衣に包まれた女性が、腕で胸を頂く様に佇んでいる。
このデジャヴ感は何?

「わらわを呼んだのは、おまえか」静かに声が響いてくる。
「?」黙っていると、また声が。
「わらわを呼んだのは、お主か?」それ私ですか?

VRゴーグル越しにキョロキョロする。
いや、こんな所に放りだされてもね。出口はどこ?

ふと、女性が腕を広げた後、静かに目を閉じながら
胸の前で、両手で輪を作る。SNSとかで流行ってる♥じゃないよな?○ですか?
「は、ハートですか?」答えない。
次に、両手の4本の指を揃え、親指は離す形に。翼を広げた様な形になったら
胸から腹部に下げて、こちらに向けてハトが飛ぶ様な形に?それMの形?
「手話?手話ですか?」

しばらくして、目を開くと、両手を重ね、真っ直ぐ目の前で合わせた。合掌?
「おうーえむーわん」わん、わん、わん(エコー)。おう・えむわん?

静かに女神は告げた。
「新しい器の名前は、『おうえむ・わん』」・・・はい?
「いや、ジェスチャークイズにしては、問題がイマイチだなぁ」つい呟いてしまった。
「た、戯け者っ」ドーンという音。雷鳴が響く。
いつもこれだな。

「これは『おうえむ・わん』の神事であるぞ」VRの続きだったのか?
女神はこちらのリアクションに意を介せず、続ける。

「我が社(やしろ)は遷宮し、この大社の末社として祀られる事になった。」
神事の説明ですね。
「新しい社に相応しい、究極の器を氏子や寄進するモノに与える事となった。」
ほうほう、寄進って一体?
「社造営に、寄進をお願いします。」急に殊勝な態度だな、しかもストレートだ。

これから建てる社の費用がやはり不足しているのだろう。
宮大工も少ないだろうし、材料となる木材も国産は厳しいだろう。

「寄進と言われても、その究極の器とはなんですか?」ついつい聞いてしまいます。
「究極の器とは、これまでの器を越えるカンワザを有した器ぞ」
カンワザ?神業?
「具体的には何を?」いちいち曖昧なんですけど。
「手間が掛かるやるじゃ。これを見るが良い。」

VR空間にふわふわ浮かぶ、PDFファイル。
「マイノリティレポート」のトム・クルーズよろしく、両手を使い拡大して見る。
おお、我がマーク2との比較も載ってるぞ。

大きな違いは、裏面照射形センサーと画像エンジン。
そしてISOもかなり高い領域までカバーされている。
お、ファインダーがついに有機ELになってる。
1053点オールクロス像面位相差クワッドピクセルAFって、舌を噛みそうな名前だ。
さらにAI被写体認識AFってえのも?

「実際どんな形なんですか?」女神に問いてみる。
すらりと立っている女神。ん?むむむ? そ、その胸の大きさは?
体に不釣り合いな胸の大きさ、助平の俺も気がつかなかったぞ。VRだからCGで大きくなった?
「あ、アイカップありますよね?」VRだってことをいいことに、普段口に出さない事を・・・。

胸を押さえながら、クルリと向こうをむいて、あわあわしている。なんかカワイイぞ。
「そ、そんなハズはない」少し困惑しているのか?
ごそごそやっていると思ったら、黒い筐体を持ってこちらに振り向いた。
そして、胸は、通常モードに・・。

「今回は、eyeカップなぞない。」キッパリと凛と答えながら、グイと差し出される筐体。
VR空間に映し出される映像。なかなか渋いぞ。マーク2の流れも組む、そのフォルム。
太いグリップだが少しデザインが洗練されている様にもみえる。


「AI被写体認識AFって?」こちらも聞いてみる。
「えっくすにも搭載された機能じゃ。鉄騎(バイクね)、機関車(電車だろう)、馬車(車な)も
 一目でそれと判断し、追いかける仕組みじゃ」つまり、AFが追いかけてくれるのか。

「そ、それ走る巫女さんにも有効ですか?」
神社で巫女さんの後ろ姿を撮る時に有効なAI機能ならなお嬉しい。
巫女ハンター協会支部長としては、当然の質問だ。

「そんな助平を助ける仕組みは無い」目を細めてこちらを見る。やっぱな。
「それでは、馬はどうですか?」競馬場なら、競走馬ならどうだろうか?
「鉄騎が該当するであろう」バイクの方が早いかな。時速60kmくらいなら有効だろうか?

「それに・・」思わせぶりに続ける女神。
「それに?」問いただすワタクシ。
「今回は特別に『御凜蓮』の文字が入る事になろうぞ。」なんと特別仕様なのか?
「これが最後の銘になろう」少し悲しげな女神さま。

マーク3を見送ったとは言え、なかなか手が出そうにもない。
「なかなか、高額でしょうし、いや〜どっしようかな」少し遠くを見ながら呟いてみた。

女神は目を瞑ると、瞑想に入る。閉じた瞼の下で、目が動いているぞ。
「お主は以前、まあーく2を手に入れておるな。」検索名人には個人情報が垂れ流しだ。

「はい、しかし、OCP+で、シャッターユニットも交換したので、中身はほぼ新品です。」
・・・ちょっと間があいた。セールスに支障がでただろうか。

「しかし、究極の器じゃ。お主のイー⤴️M1とは次元が違うモノであるぞ」
なんで「イー」が少し上がって、間があいてから、「M1」て言いますの?
誰かの指示だろうか?
「これを逃すと、しばらくその機会は失われるぞよ」
どうしても寄進して欲しいのかな。

「いや、しかし寄進ってお布施なんですよね。いかほどなんですか?」単刀直入に聞いてみる。
クルりと女神は後ろを向いてごそごそしてからこちらに振り返る。
む、胸が増強・・・なぜソコに仕舞いますの?

「今であれば、1割ほど徳になろうぞ」少し微笑む女神。
寄進費用がVR空間に数字で示された。レジスターの効果音。
なんという価格。20万を超えてます。
「い、1割なんですか?なにかポイントがあったやうな」
どうしたんだろうポイント。

女神は再び目を閉じるとレム睡眠検索に。
「会員番号34XXXXXX。遷宮と伴に、そなたの割り札は抹消されておるぞ」
な、なんて?ポイント消えちゃったのか。しかも随分クールな扱いだ。

「じゃあこの価格、いや、お布施の費用は揺るぎないと?」
「他の銅鏡を得れば、お主の元に、後々、下付(かふ)があろう」
それキャッシュバックですやん。
「他のレンズは手に入れてしまっているので、なかなか難しいです」諦めるしかないな。

「すいません。今回は寄進に協力できません」仕方ない、断ろう。
「会員番号34XXXXXX。それではこの地図を持って行くが良い」え、地図?
VR空間に示されるマップ。境内とXに示されたのは何?
「お主はここに参るが良い。かならず寄進をするのじゃぞ・・・」
女神が小さく遠のいていく。

「今後は『御凜蓮神社』改め『大惠夢明神』と呼ぶが良い、サラバじゃ」
す〜と蒼い空間に消えて行く。
随分今回は、あっさり行ってしまわれた。

         *************   

VR参拝を後に、手元に印刷された地図を見る。
大参道に交差する様に、横にも参道がある広い境内だ。

大社から下り、十字路となった参道を右手に進む。
境内からそろそろ出てしまうと思われる所に、小さな店らしき建物が。

看板には「地図写真機」と書いてある。
昭和感満載のショーケースには、往年のオールドカメラが並んでいる。
これは、中古カメラ屋さんだろうか。

「ごめんください」少し古い扉を開け、神社から地図を貰って来ました〜と声を掛ける。
中から出てきた小柄な女性。どっかで見たような。

「お帰りなさいませ、ご主人さまっ」アニメ声ですけど、そういう店? ていうか君は?
「いや、帰ってきた訳じゃなんですけど」・・・これもデジャヴ感。
「『おうえむわん』のご検討ですねっ!」え、なんで分かるの?
「いや、どうしてソレが?」報連相システムが機能してるの?
「神社からいらっしゃったんですよね」そりゃそうでした。

「『おうえむわん』の手続きでしたら、お受けできまっす〜」元気よくアニメ声で答える。
「あ、やっぱり、カメラ屋さんなんだね」神社にカメラ屋とは?
「ちがいま〜っす。」違うんかいっ。
「ホントはお団子やさんでーす」え、そうなの?
「ウっソでーす。」つ、疲れるな。

真面目に聞くと、寄進受付所だとの事。
参拝、寄進された方は、神社から御神酒などを受ける場所の様だ。
しかしカメラが並んで・・・

「『おうえむわん』(←訛ってないか?)なら、この寄進料です〜」
示された費用は、さっきの女神と同じだ。
「それ、1割引きだよね。これじゃ変わらないじゃん。
「そうで〜す」く、喰えない。

「でも、いまなら、キャンペーン中ですっ」ん、なんの?
「今お使いの器を募集してまっす」マーク2の事か?
「はい。里子にするなら、大歓迎です」
「リコー?いや、持ってるのOLYMPUSです。」
「違いまっす。さとごに出してくださいって意味ですっ」く、喰えない。
つまり、下取りですよね?

「今なら、ワンプライス買取中。詳しくはWebで検索。」
そう言いながら、指を動かすんじゃないっ。

「そ、れ、とー」ハラが立つけど、アニメ声に馴染んで来たぞ。
「それと?」
「今なら、先にお触りできちゃいますよぉ」な、なんと♥
「え、そうなの。」こっちが顔を赤らめちゃうな。

「触っていいの?」手をヒラヒラしちゃったじゃん。
「ご主人さま、お戯れを〜。(スッと後ろに下がって)先取交換もやってまっす。」
「え?先取交換って?何?」

聞くと、下取りするにしても、新しい商品(器ね)が来てから
里子に出す商品を送れば良いシステムらしい。
先に来るから、お触り可能という訳か。ま、紛らわしいぞっ。

「つまり、価格は1割引きだけど、先取交換できるって事でオケ?」
「そうでございまっす」笑顔だけは、一流だな、こいつ。
胸のネームプレートには「デージー」の名前が、どこかで見たなこれ。

やはり究極の器だし、寄進すればもれなく手に入るらしい。
そうとなれば、手続きを進める。マーク2も5年使った。

寄進の受付表に名前を書いて、マーク2を先取買取にする。
追加で加えたバッテリーホルダーはOM-1ではもう使えないのだ。

「それではカード払いになります〜」どうやら先取交換はカードだけの対応だ。
いつも使うカードを出して、決済をお願いする。

「お客さま〜、決済が進みません〜。」なんとカードが使えないと?
「お客さま〜、限度額越えてませんかああ?」ちょ、それはないでしょ。
「いや、高額だけど、それを払えない限度額じゃないぞ」ちょっとクレームだ。

「わっかりました。担当の者を呼びまっす。失礼しまっす。」デージーさんは奥に消えた。
どうすんの、この手続き。

しばらくすると、ラピュタのムスカの様なヤツが、奥から現れた。
「如何されましたか?」いや、それ聞きますの?
仕方ないので、状況を説明。

「カードの限度額ではなさそうですね。ではもう一度。」
しかしカード決済ができない。これは買うなという事か?
「いや、他のカードでもやったけど、ダメですよ。システムの問題じゃ?」
いつも使っているカードだから、セキュアで止まっている様子だ。

「ちょっとお調べを。・・・お客様、エラーコードを見ますと・・・
 一度、カード会社で調整が必要の様です。」淡々と説明するムスカ。
聞くと、新しい商品と下取り後の価格、2つの与信が掛かっている場合に生じる
セキュリティエラーであること。これは地図屋ではどうしようも無いと説明を受けた。

「今一度、お確かめ頂くしかありません。
 手続きはこのまま保留と致しますので、後日、お願いいたします。」
ムスカめ、そちらのシステムの問題だろう。
しかし手続きを進めてしまっているから、キャンセルもアレだし
後は決済だけなのだけど、これではスムーズな寄進?ができない。

一度店を出た。
辺りは夕暮れになり、オレンジ色から少しずつ濃い青に変わっていく時間だ。
先ほどの辻に戻り、参道を下る。

神社を出る前に、芸能の神様が祀られている社が。
リアルで参拝してなかったじゃない。
写真もアートだし、芸能の神様に参拝しよう。

参拝が済ませると、右手に社務所が。
まだ灯りが付いている。

中を覗くと、巫女ではない、薄金色の生地に緑の襟の着物の女性が。
「ご寄進でお困りですね」静かに彼女は私の顔を見て呟く。
「え、そうです。折角寄進をしようとしたのですが・・・」
「皆さんこちらに立ち寄られます。さ、そこへ」小さな対面カウンターを案内された。

状況を説明すると、微笑みながら
「時折りこちらにそういう方々がいらっしゃいますわ」
どうも地図屋でのトラブルは自分だけでない様子だ。
「ワタクシの占いは、○○術、XX術、総合的に□□になっております」
いや、占いは売らないで下さい。
「ゑ、売らないは要らないです」ジッと私の頭の上を見つめる彼女。
「与信が二つ、中に浮いていますわ」
そ、それ正に、それ。ロック♪ろっくおお〜ん♪
な、何故分かりますの?

「それでは、ワタクシの方で、ごにょごにょ致しますから
 お客様は、ご自宅にお帰りになり、オンラインで手続きをして頂きます」
「は、はい」疑心暗鬼だが、それでイイの?
「明日には、無事、ご寄進ができます事をお祈り申し上げます」微笑む彼女との会話は終わった。
ネームプレートには「三井住子」と書いてあった。

社務所を後に、帰路につく。
神職とすれ違う。紫の袴を着た神職だ。

一礼して過ぎ去ると、後ろから声が。
「そこのお主」懐かしい、いや1ヶ月ほど前に聞いた声か。

振り返ると、こちらを見ている神職。
薄暗いが、少し恰幅が良い。袴の前が布袋腹が。
「あ、はい。お疲れさまです」
「疲れるほど、働くな〜」湾岸署の和久さんですか?

「神事の帰りとみたな」グイと近づいてくる。
街灯に照らされた顔は、し、志熊老師?

「え、志熊老師、ここで何を?」
「見た事がある顔じゃな。」右から左からジロジロ見ないでください。
「ええ、前の神社があった、ホラ庭いじりをしていた時に・・・」
しばし考える老師、いや神主?
「そんな事があったかな。」たしかに貴方は飲んでました、焼酎を。

「こんな所で何をされているですか、コスプレですか?」
「こんな所とは何じゃ。こすぷれ?まあ似た様なものじゃが。」こんな所は失礼でした。

「あ、すいません。公園管理をされていたのじゃ?」確か藁しべ長者でマンションがどうとか?
「うーむ。毎日アレだと飽きてな。マンションを売り払って、引越じゃ」億ションを売ってですか?
「で、今は何を?」
「見ての通りじゃ」え、神職ですか。この神社、懐が広いな。

「神事の帰りじゃな、大惠夢の」な、なんで分かるんだ、テレパスなのか、やっぱり?
「そ、その通りです、凄いですね」この人タダモノじゃない。いや変な人だけど。
「その冊子じゃ」あ、さっきの店からOM-1のカタログを貰って、袋がないから手持ちだったわ。
「は、はあ」なんだ、テレパスじゃないんだ。

「で、寄進はしたのかな」少し真剣なまなざしでこちらを見る老師。
「はい、トラブルがあったので、ウチに帰ってからとなりますが」
カタログをジッと見る。ここまで来たのだから、手に入れたい究極の一品。

「うむ、そうか」襟に手をグイとツッコみ、カメラの様な品物を取り出した。
「持っていくが良い」え、何を?
「初代おうえむわんじゃな」鈍く銀色に輝く、オールドカメラ。
「いや、頂けません。それにフィルムカメラを買う訳には」流石にそこには行けません。
「神事の帰りじゃ。手ブラじゃ帰れまい」そんな、今日は優しいな老師。

「分かりました」カメラを仕舞う。
「む、売るでないぞ」な、なんで分かるのか、やっぱり?
「う、売りゃしませんよぉ」なんでバレたんだろう。

疑わしい目をしながら、老師が呟く。
「ヤマトじゃ」ヤマト?大和?
「ど、どういう事ですか?」
「3月18日になれば、分かろうて」そろそろ行きそうな、老師。
「ど、どういう事ですか」怖いぞ、このカメラ。

「神棚に飾っておくのじゃ。その時になれば、その中から一条の光と伴に・・・」
いや、それ宇宙戦艦の方ですから。
外装1枚の下に新造宇宙船を作るMADE IN JAPANの技術ですよね?
「初代おうえむわんの哲学を引継ぐのじゃ。撮れ、撮るのじゃ、想いのままに。」

「それでは、ご機嫌よう」深々とお辞儀をする、謎の志熊老師。
クルリと振り返ると、しずしずと闇に消えて行った。袴の腰には「瑞光」の金文字が。

神社も閉門の時間だ。すっかり暗くなった参道を下る。
北の空には、北極星が輝いていました。

<おしまい>

※ このお話は、フィクションか、いま流行りのマルチバースの出来事です。

        ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★

そして3月18日、ヤマトならぬヤマト運輸さんが、お届けものを配送。


OM-1は外装を破って出てくる事はなく、リアルにちゃんと届きましたとさ。


つづく。

オリンポスの女神 いや女将?2022年01月22日 20時00分


今年も1ヶ月が過ぎた。

しばし落ち着いた感染症騒ぎも、再熱か。
強毒なウィルスは人を殺めてしまうから残れない。
やがては弱毒化し人と共存していく。
これまでの風邪も同じだ。
自然の摂理に反した行為が、収束を遠ざけている。
いや、遠ざけたい人達もいるのか。

しばらくすると、また不要不急の外出は控えろ、となるのだろう。
同じ事がこの2年続いている。まだしばらく続くのだろう。

家に籠もり過ぎるのも体に悪い。
気分転換に車で出かける。
この車に乗り換えてから、遠出が出来てない理由の1つが
自粛でもあるのだ。

しばらく走らせて行くと、丘陵地帯。
以前はカメラを持って散策したエリア。
里山や神社もあった静謐な空間は、再開発が進んだ。

自然を残しつつではあるが、そこには地形を利用した街ができていた。
少し狭いワインディングロードは、丘と丘の間の尾根か。
しばらく行くと、大きなショッピングモールが現れた。
再開発は、ほぼ終わったらしい。

グルりと周り込むと、少し離れた駐車場にクルマを置いた。
中心エリアだと車列ができていたし、昔の名残を眺めながら歩くのもよし。

車をおいた場所と中心のエリアは、デッキで結ばれている。
地形で言えば、丘と丘の間をデッキでつないだのだろう。
中心エリアがプレオープンだから、まだ植栽や外構は手が入って無い所がある。

できるだけ以前の形を残しているのだろうか。
一部遊歩道らしき残骸が残っている。
こちらのエリアに車を停める人は少ない。
家族連れならお父さんに文句がでるだろう。

1人ぶらぶら以前の面影を探しながら、遠くに見えるモールを目指す。
樹齢の古い大木は伐採を逃れた様だ。アスファルトで覆われないだけ
環境には配慮がされた様だ。

その中には植栽をいじる方もいる。
春に向けての整備だろうか。
おもわず「お疲れ様です」とすれ違い様に声を掛けた。
返事はなかった。仕事に集中されているのだろう。
行き過ぎた時、後ろから声が掛かる。

「そこのおぬしっ」なつかしい、くも爺のような声。
あ、ちなみにアマゾンプライムで、見れるんだよね「空から日本を見てみよう」。
2010年頃だから、4Kじゃないのがザンネンだけど。

振り返ると、藍色の作業着とも作務衣とも言えぬ出で立ち。
柔道の様な黒帯に白い文字で「志熊」と書いてある。
しっ、志熊老師? ていうか、いつものパターンだよね?

「は、はい?」
「今、声を掛けたじゃろ?」
「は、はい。ま、挨拶をしただけです」無視したんじゃなかったのか。

グイと一歩前に出てくる。
「うむ、どっかで見た顔じゃの」
そりゃそうでしょ、あなたがあの人なら何度も会ってます。おまけにご兄弟にも。
「え、そうですかぁ(フェイドアウト)」
絡まれたらヤバイ人だから、早く行かなくちゃ。
今日の目的は、ぶらぶらしに来ただけだし。

「この辺も随分変わったのぉ」
立ち去る自分の背中越しに、まだ話掛けてくる。・・・大きな独り言だろうか。

ちらと後ろを振り返ると、花壇を構成するブロックの上に腰を降ろしている。
レ、レンズを取り出してる?
「レンズは、要りませんよっ、しかもNIK◎Nだなんてっ」
押し売りを始めようとしてんな。そもそもウチのはフォーサーズ機ですから。

「なあにを言っておるんじゃ」
近くにあった袋から水筒を出して、レンズキャップを開けて注ぐ。
な、なにしとんだ、防塵防滴祭りかよっ!?

見ると、レンズの中にホカホカのお茶が注ぎ込まれていく。
な、なんとマグカップか?
「そ、それ、マグカップなんですか?」
「ん?おうよ」
横目で一瞥をよこしながら、レンズをグイと傾ける。ノドが大きく上下に動く。
それ、メ◎カリに出てましたよね、絶対。

「おほう、やっぱり体が温まるのお、焼酎は」ぷはあと白い息が立ち上る。
さ、酒なんですが、仕事中に。

懐からガサガサ、ビニール袋を出している。
ん、それスルメでしょ、絶対。
「さ、酒飲んで、大丈夫なんですか?」ダメだ、いつものパターンじゃん。

「こんな寒いのにシラフで園芸なんぞできるか?まあ、誰も来んて」
スルメの片足をクチからはみ出しながら、くちゃくちゃしてる。
居たよね、電車にもこういうオジサン(昭和感)。

「いや、お仕事中ですよね。現場監督にも叱られちゃいますよ」
「わしを叱れる者なんぞ、おらんて」スルメの足が吸い込まれていく。
「作業中ですよね。高齢者の就職もこのご時世、厳しいでしょ」
「現場かんとくぅ?」首を傾げて、また一口グイとタンブラーを煽る。
 聞いてないなこの人。

「首になっちゃても知らないですよ」後で現場事務所に行ってチクちゃうぞ。
大きな袖に両腕をツッコんで、どこか遠くを眺めてる。
「じゃ、失礼します」さ、あっち行こう。
「チクっても無駄じゃぞ」な、なんで分かるだ、て、テレパスだな。

「いや、誰にも何も言いませんよ」これ以上関わりたくない。
「ここはわしの管理区域じゃ。元はと言えば、爺さんから譲り受けたの山があってな。
 畑に使ってたが、立ち退きしたのじゃよ・・・」
再開発の余波がここにも。

「まあ、庭いじりだけは好きにしていいとな。それも契約じゃ」
「そうだったんですね。それは失礼しました。住み慣れた場所から移るなんて、酷いですね」
この方なりにご苦労されたんだ。
「今はな、ホレその先のタワーマンションの最上階でな、いちばんイイ部屋でな」
ニカッと微笑み、ガッと👍を立てた。それ、藁しべ長者ですやん。

「じゃ、お元気で」そろそろ次に行かないと、読者もこのサイト閉じちゃうぞ。
「まあ、待つのじゃ」まだ何かあるんですの?
「いや、先を急ぎますので」このクダリだけで、スレ終わっちゃうぞ。
「ロシアから良い出物が入ってな」ろ、露西亜?

「特殊なルートで手に入れたブツだが、お主は興味があろうて」ど、どゆこと。
「そ、それ薬じゃないですよね! 買いませんよ、要りませんっ」
あの畑、きっと「大きな麻」でも栽培していたに違いないっ。
このままじゃシンジケートに連れていかれて、カスピ海にでも沈められちゃうかもしんないぞ。

「カメラに興味があるな」キッパリと静かに告げる。て、テレパスだな。やっぱり。
「え、ええ、まあ。なぜ、それを? テレパスなんですか?」
「ワシのタンブラーをレンズと見誤ったからじゃ」ああ、そーでした。

「露西亜の出玉じゃ、通称『ロシアの黒い瞳』」黒い瞳?
「ええい。分からんヤツじゃな。ホレ、実際に見せんとな」
体を揺すりながら、懐に手を突っ込んでいる。ん、それ、股間を直してませんか?

ようやく懐からホカホカした黒いレンズを取り出した。え?シ◎マじゃないじゃん。
「・・・HELIOS 44M-4 f2、58mm。価格はだいたい1万円じゃ」と言いながら
レンズ型タンブラーの横にレンズを立てる。

「いわゆる、オールドレンズじゃな。写りは、こんな具合じゃ」
今度は袋からA4サイズの写真を撮りだして、タンブラーとレンズの間に立てる。

「こ、これは」思いの外、綺麗じゃないか。おもわず言葉が漏れる。
「存外にシャープぢゃろうて」
老師はニヤニヤとしながら、フォーサーズ機らしきカメラにレンズを装着。
いや、あなた、どこからカメラを出したんですかい。

「ホレ、こうやってな。ん?絞れんな」どうも不具合らしい。
「老師、オールドレンズと言って、変なモノ売らないでくださいよ」
すると、カッと目を開き、飛沫を飛ばしながら、一喝が。
「バッカモーン、モーン、モーン、モーン・・」辺りの樹々にこだまが響く。
し、叱られちゃったよ、久々に。

「これはな、寒いからグリスがな。それとココにピンがあるじゃろ」2人でレンズを覗き込む。
「マウントのピンをちょいと細工しないとな。兎に角、ちゃんと写る良品じゃぞ」
そ、それ、ブッキーなワタクシにはムズイです。

( ̄ー ̄)こんな顔をしてたら、老師が小さく「だめか?」と確認します。
「だめですね。値段と写りは破格でも、ブッキーな私にはムズイです」ゴメンナさい。
「そうか、ザンネンじゃな」今日は早めの引き下がりだな。
よかった、帰れる。いや、帰るんじゃない。

ごそごそと出したモノを片付けながら、老師がつぶやく。
「これから向こうに行くなら、麗華の店に行くと良い」
・・・ゑ? 今、麗華って言いました?
「麗華って、前は行っちゃいけないって言いませんでしたっけ?」
「ワシがそんなこと、いつ言ったか?」あれって志熊老師?それともお兄さんだっけ??
レンズ型タンブラも袋にしまう。それOM製ありませんか?

「それと・・」
「それと?」
「ま、行けば分かるて」終わるのかいっ。

そう言いながら、庭いじりに戻っていく老師。
「春にはな、この桜もまた咲くぞ。また見に来いよ」
後ろを向きながら軽く手を上げて去っていく老師。
その背中には、瑞光と書かれた金文字が輝いていた。

      *************

だいぶ時間をとられた。
書いてる作者もどうしたものかと思ってただろう。
先を急ごう。

デッキを渡り、第一駐車場を抜け、ようやく建物の中へ。
今では広いショッピングモールだ。

中央は吹き抜け空間。
1階からも2階、3階の様子が見える。エスカレーターでつながる回廊風だ。
1階はブテックやセレクトショップ、あるいは雑貨屋さんで占められている。
エスカレーターに乗る前に、総合案内板を見る。楽器屋や本屋もある様だ。

3階に「麗華」の文字を見つけた。
まさか、あの店が残っていたのか?

それにしても奥の奥。
トイレとかある場所じゃないのかと思う位の奥にその店はあった。

現代風にアレンジされた入り口。
以前の和風の趣きは無い。白い壁に白い床。
正直言うと、天井のLEDは光の直進性が高いから、ローガンが進んだ目にまぶしいのよ。
お店に入る所で、1人の女性が現れた。

上下黒いスーツに、白いシャツ。金色のネームプレートは光って見えない。
ショートにレイヤーされた髪型は、小顔に映えて身長以上に背が高く見える。
「お待ちしておりました」どこかで見た姿。
そうだ、麗華の店かあの神社の?

「駐車場の方から、ご連絡がありました」
「ちゅ、駐車場?」車に何かあったか?
「庭園管理のモノからの連絡です」まさか志熊のオンジがもう報連相を?

「どうぞこちらへ」
眩しい白い店内に案内される。
店には商品も無く、サンプルもない。ある意味、未来感満載。

「感染症対策が厳しいので、手に取る商品は置いておりません」そうか、カタログ販売なのかな。
「それと、1ON1。ひとり1人で接客させて頂いております」ということはお客は1人なの?
「どうぞ、こちらへ」案内される席につく。こちらも白いテーブル。

意味のないアクリルシールドが机の真ん中に衝立られている。しかも天井まで。
そのためか、席につくと彼女はマスクを外した。
天井まであるんだから、マスクいらないハズだよね。
やはり何度か会った女性だ・・・。

「麗華の店、無くなったかと思ってました」なんとなく話題を振る。
「最小の規模で継続が決まりました。ただ『特別な方のコーナー』は今はありません」
飲食店だけでなく、いろいろなお店が立ち行かなくなってるんだろう。
まあ『特別な方のコーナ』は入れても貰えなかったからな、無くてもいいよ(←やっかみです)。

「以前からこちらで?」
「ええ。このお店が出来る前に異動の話がありましたが、このご時世です。
 引続きお世話になっています」契約社員なんだろうか、厳しいだろうな。

 話が湿っぽくなってきた。話題を変える。
「そうですか。やはりココもレンズ屋さんなんですか?」
「管理の者から、こちらにいらっしゃると連絡がありましたので、お待ちしておりました。
 早速、ご説明を。モニターをご覧ください」テーブルを見ると映像が流れる。
 なんだ、有機ディスプレイなのか。 志熊老師に強引にココに誘導されたわ、これ。

映し出されるラインナップ。
黒い胴鏡の数々。やはりレンズ屋さんなんだよね、ここ?
「ロシアのレンズじゃない、お薦めはあるんですか?」買わないと思うけど、聞いてみよう。
志熊老師とお話しするより、ずっといいよw

「ワタクシの使命は、費用対効果。お客様が満足する画質を提供する事ですわ」
「はい、わかります」分かんないけど、頑張ってるのね?
「これまでに体験した事の無い世界にお連れする事でもあるのです」
「そ、そうですか? 未体験ゾーンに連れてってくれると?」

「お客様は中・望遠のレンズはお持ちですか?」
「ええ、まあ。30mm、45mm、56mm、60mmもマクロも入れて数本。望遠もあるかな」
「まあ、いろいろ手をだしていらっしゃるのね」なんで、そこ下を向いてモジモジすんの?
「ま、女性には手を出せませんが、レンズは買えますからね、わっはは」下ネタかいっ。
 言ってて恥ずかしくなり、暫し沈黙。

「お客様は、ワタ・・に興味をお持ちですか?」変な会話になってきたぞ。
アクリルのせいで良く聞こえないぞ。ワタクシって行った?今?

「え、まあ、き、綺麗な方だなと思いますけど」ロングもいいけど、ショートもいいよね。
「これをご覧下さい」モニターにサンプルが映し出される。
100-400mmの超望遠。そこには麗華の文字。前から欲しい1本だ。
それで撮影された白い鳥の群。ワタクシじゃなくて、ワタリドリって言ったのか(爆)
「いや、望遠はもってるし、テレコンもあるからな」俺の勘違いじゃん、恥ずかしい。

「それでは、こちらは如何でしょうか?」次は中望遠の領域だ。
フォーカスは明瞭、その向こうには溶ろける様なボケ。
昔もっていたあるレンズにも似た描写・・・。
「単焦点、42.5mm、F1.2。Nokt-(ノクト)というのは「夜」を意味する言葉ですわ」
なんだか妖艶だぞ。
「は、はい。綺麗な写真ですね。君がモデルになってくれるなら買ってもいいかな」
「ええ、「夜」も期待にお答えします。」
た、単刀直入ぢゃないかっ。(↑たぶん夜の撮影の意味ね)
こ、これは、まさか魔の誘惑なのか?

すっと顔を上げ、黒い瞳(←ロシアじゃないぞ)を真っ直ぐに私に向けた。ドキドキっ。
「今なら、取り寄せる事も可能ですわ」いつもより推しの強い姿勢だ。

「あ、じゃあ、まず商品を見させてもらうかな」やいやい言っちゃったよ。
「承知いたしました。商品を見てから、キャンセルもできますので」
アクリルの向こうの机に何やらキーを打つ様に手を動かす彼女。
タッチ式のキーボードか?

「もしかしたら・・・倉庫にあるかもしれません」
「じゃ携帯か何かに後で連絡してもらってもいいかな」
一度頭を冷やそう。数日経って気持ちが変わるかもしれないしね。

「この先に庭園がございますから、そちらでお待ち頂ければ、すぐにご連絡します」
テキパキと処理を行う。真面目だし丁寧だし、そこまで言うなら、庭園で待つか。

「この奥にございますから、真っ直ぐにお進みください」
店の玄関までおくって貰うと、彼女は深々と頭を下げた。
・・・や、まだ買ってないからね。

      *************

屋上緑地化はどこでも割と進んでいる。ここもその1つだ。
芝生の先に、少し高めの樹木も植えられている。その先は見えない。
暫く行くと、樹々の内側には、小川というか、側溝で作られた水の流れがある。
その先には小さな鳥居と小さな社。

ゑ?

小さな看板に
「高千穂峰 御凜蓮神社」続けて、説明文が。
「この神社は2021年12月の本モール完成を機に現在の地に遷宮されました。云々」
とあった。

なるほど、これは、ラ◎ーナ川崎に「出雲大社」が鎮座してるのと同じだな。
元々、某社の工場に祭られていた神社をショッピングモール開発と同時に遷宮したアレだ。
流石に撤去するなんてバチ当たりだものね。まあ羽田の穴守稲荷の鳥居は、いろいろあって
あの場所にあるのだけど、不思議な事はあるものです。

あの神社、形を変えて残してくれたのだな。
となると小川は結界なのだな。
社は小さな池を模した円形の中に設置されている。

事ある毎に、お世話になった神社だ。手を合わせておこう。
小さな賽銭箱に、小銭を入れて、二礼二拍手。目をつぶる。
特に願い事はなし。ただタダ手を合わせる・・・とちょっと目眩が((;゚Д゚))

いかん、秋頃の季節の変わり目に出た、頭位性目眩だろうか。
思わず、鳥居の前に、ひざまずく。

轟々と耳鳴りがする。遠雷らしき音が聞こえた気がしたが、空耳だろう。
さっきまで大丈夫だったのに、突発性難聴かな?
良く見ると、周りも少し霧がある様な・・・。
確かに山間部だし、天気が悪くなってきたかも。
落ち着いたら、帰った方がいいな。そう自問自答している間に声がする。

「わらわを呼び寄せたのはお前か」いや、呼んでないですし、嫌な予感しかしません。
「ひざまずくとは、殊勝な心がけじゃ」いや、目眩がしてるだけです。
 目の前に姿が見えてきた。ターミネーター風にひざまずく私の前には誰かの姿が。
 良く凝らして見ると、き着物姿?

「あれ?女神さんじゃないんですね?」
黒い留め袖の様な和服姿に、襟元や帯は緑色。紙も結い上げている。
どこかで・・・見覚えがある様な・・・・考えるな感じるんだ。

「おお、おおう。もしかして、む、無残さま」鬼滅の無残様の女型?
「た、戯けものっがー」す、すいません。
「鬼に例えるとは何事じゃ」え、アニメ見てますよね?

「し、失礼しました。いつもなら洋装のドレス姿だと思っておりましたので」
どう見ても、和服姿だよね。
「何か勘違いしておる様だな」では、あなたは一体?

「御凜蓮神社の方ではないのですか?」あの女神さんもなんて言えばいいんだ。
「わらわは、遠い遠い縁者じゃ」親戚?関係者?変な人しかいないな。

「お主が呼んだから召喚されたのじゃ」いや、召喚してないし、10円入れただけです(ケチ)。
「いえいえ、ただ昔ここにあった神社にお世話になったので、御礼参りです。」
「御礼の割には、10円とはケチくさいのぉ」バレてました。

「ここも再開発されて、神社もなくなったと思っていました」話しを反らそう。
「うむ、あのまま遷宮もしなければ、関係者全員をとりXXしてやる所じゃった」やっぱ鬼ですよね!?
「ああ、小さい社でも残して頂いて良かったです」みんな、よかったね。

「ひざまずいてまでの願いとは何じゃ」だから、ひざまずいて無いんですってば。
「いえいえ、ちょっと目眩がしただけです。先ほどもレンズのお店で
 高額商品を目にしましたから、ちょっとクラクラしちゃっただけです」
「この神社に遷宮して、かの大君は、お隠れになった」人の話、聞いてないな、この人も。
「え、やはり御神気が感じられないのはそういう事ですか?」コンクリートの社は寂しいよね。
「この神社を再興するためには、やはりお布施が必要じゃ」ほら、そう来たぞ。
「いや神社の再興は、やはり山の持ち主や権力者に言って頂かないと」
 最近、給料が下がって、私も大変なんです。

さらにたたみ掛ける様に、女神いや女将は続ける。
「御凜蓮神社だけではない、四分乃三儀神社の更なる発展も必要じゃ」
 4分の3?なんですの、それ。
「わらわの役目は、他の神社も潰さぬよう、それぞれにお布施を配り、持続可能とする事じゃ」
それ、SDGsを言ってます?

唐突に女将が叫ぶ。
「み、みえるぞ。」な、何がですか? アムロ・レイ? それともララアですか?
「今、東の方角から、黒い胴鏡が向かっておるぞ」さっき、現物を見たいって言ったレンズですね?
「それなら、お取り寄せして頂いています。まだ、買うか決めてませんが」
そう言った途端、少し厳しい目で一瞥された。鬼の方でしょ、ぜったい。

「おなごの心をもて遊んでおるな」はい?
「いや、在庫商品を確認して頂いています」だから商品を見ないとねって言ってるでしょ。
「あの子はな、美麗だが高嶺の華と扱われ、再就職もできず、この地に残った」
だったら正規社員にしてあげてください。

「気立ての良い子じゃが、なかなか売り上げが伸ばせぬ、クチベタでな」
だから営業職に向いてないんじゃ?適材適所が上司の勤めですやん。

「これ以上、もてあそぶでないぞ」この人も一方的じゃないか。
「いえいえ、商品を確認してからですから」この場はこれで納めて頂かないと。

しかし無残さま(←違うって)は諦めない。
「お主もずっと憧れであったであろう。わらわには分かる」いや、さっき会ったばかりですよ。
「ここにも、そこにも、あの事がブログに書かれておるぞ」
静かに瞑った瞼の下は、眼球が動いている。この人もレム睡眠検索名人か。

そして少し不敵に微笑むと、鬼の首を取ったかの様な事を言う。鬼が鬼の首を?
「それと・・・黒い板を手にいれておるな」黒い板?
「金色特典手札」それ、ゴールドポイントカードですか? 信用情報も入手可能らしいぞ。

「え、まあ、年末にですね。カードは増やしたくなかったけど、仕方なく。
 ほら、PlayStation5のゲリラ販売は、このカードが無いと買えないんですよ。
 アキバなら数百台あるのに田舎だと数十台ですからねえ。予約制にしてほしいなあ。」

「今なら、11%還元!」ドーン、雷鳴が響く。効果音は館内放送のスピーカーから?
「しかも90日間、無料で補償も付くぞよ」はいはい、入会時に確認しています。

「取り寄せはしてもらってますが、良い商品だっていうのは分かっていますよ。
 でも、値段と品質は兎も角、なかなか手が出ない商品です。
 ましてや、似た様なレンズがあるんです。45mm、56mm、60mm・・・」
「いろいろ手を出しておるな。この浮気者めがっ」いや、それレンズですから。
「いや、どれもコスパが高いモデルですからね。私もこの道はそこそこ長いですし」
「なんとモデルにも手をっ!」いや、人の話聞いてないでしょ。
「違いますって」
いつもの女神さんなら、カメラかレンズの一点集中で来るけど
この人、なかなか本題に入らないぞ。そろそろ帰ってくれないかな。

「まあ、イロイロ手を出すのは良い」え、いいんですね?
「あの子を今救わねば、もう永久(とわ)に会えぬかもしれぬぞ」
あの子の事は、その会社の事だから口出しできないけど
在庫も少なくなっているし、そもそもの商品がディスコンしたら?という事もあるな・・・。

「密林なら、4割3分7里。地図屋では4割4分3里。しかし、わらわなら、3割8分2里・・」
「それって負けてますよね。」算数くらいは分かります。
「しかし、金色特典は1割1分還元じゃ」それは知ってます。
「実質換算なら、4割4分9里の割引率じゃ」
 人的コストも掛かってますし、あの子の給料もありますもんね。

ひざまずいた姿勢から、すっくと立ってこう告げた。
「できれば、もう少し御神力を頂けますか?
 流石に金色特典まで付けて地図屋さんまでとは言いません」
一瞬怯む、無残さま(←無残じゃねえって)。
「く、くうう。ならば、これでどうじゃ。端数をドーンじゃ」
「え、そこまで?それならば、私もお布施ができるかと思います」
ああ、思い切っちゃったかな。

話が済んだとみえ、その女将はこう告げた。
「会員番号 XXXX下4桁 おぬしとの約定は成立した。」再び霧が立ちこめ、消えゆく女将。
「あ、もし、お名前は何と?」
「わらわか? わらわの事は『淀の大君』と呼ぶが良い」ヨドのオオキミ?ぃ?
その声を聞くか聞かない間にまに、後ろから声がした。振り返るとあの女性だった。
気がつくと、淀の大君の姿は無く、手元には白い明細書が残っていた。

      *************

麗華のお店のあの子、わざわざ探しに来てくれた様だ。
「商品、在庫ありましたか? いつ来ます?」系列店から来るには数日かかるだろう。
「いえ、倉庫の奥にまだ、1点だけありましたわ」
小さな紙バッグを両手に持ち、こちらに渡してくれた。
渡す時には、これまで見せてくれなかった笑顔が。え、笑顔に弱いんだよ、オジさんは。

その後、白い紙を両手で手渡してくれた。名刺かな?
「何かございましたら、こちらへご連絡ください。」
そこには「松下 麗華」と書いてある。

ま、松下?結婚されたのか(意気消沈)
「ま、松下さん? け、結婚されたんですね」声のトーン、テンション下がってたでしょ。
「はい?」
「以前は、野口さんじゃなかったでしたか」
「ノクチですわ、皆、間違えるのです」このクダリ、無限ループだな。

「今は、母方の名前を名乗っております」は、母方?
「え?お母さんの?旧姓?」どゆこと。
「私、ドイツ人のクォーターですので、祖父の名前を使っておりました。
 生まれも育ちも福島ですから。」あ、そうだったの?(いや、どういう事?)

「ノルマが達成しました。これで実家に戻る事ができます。ありがとうございました。」
 ぺこりと頭を下げて、晴れやかな彼女。
「お。おう」なんだか分からないけど、良いことしたのかもしんない。

左手に白い明細書、右手には黒い箱。
気がついたら、1年以上振りのレンズ購入だった。
車に乗り、ショッピングモールを後にする。

これからは、むやみやたらに手を合わせに行くのは辞めよう。
特に、志熊老師にあった後は・・・

<おしまい>

※ このお話は、フィクションか、いま流行りのマルチバースの出来事です。



 *************************************

このシリーズでも数回登場していたあの子。
ついに、我が家にやって来ました。

もともと私には、EP-2時代に買ったMZDの45mm(プロじゃないF1.8)もありますし
シグマのアート60mm持ちでもあります。マクロもZD50mやMZDの60mmもある。
焦点距離的にはカブリまくっている領域です。

シグマの56mmは描写も良く、価格も良かったので過去に逝った1本ですが
私のイメージでは、シグマは男ぽく、パナライカは女性ぽいイメージです。
(ええ、イメージですw)

なので、なかなかあの価格(元々22万円?)と この焦点距離は手が出せず
随分前から、憧れのレンズの1本なのでした。

1年ほど前に11万円台のアマゾンのセールを逃し、それ以降は12〜15万の間だったと思います。
最近では12万円代となり、Lマウントに行ってしまったパナの事ですから
OMになったオリンパスもどうなるか、本当に心配です。
なので、ノクチ42.5mmってディスコンしないよね?て少し思った次第。

昨年1年は、1台も1本もカメラもレンズも購入なし。
某写友(誰だか分かるね?)は、最近オールドレンズに凝ってますので
そのうち、単焦点祭りでも開催したいなとちょっと思い始めています。

少なくとも、写りは良いのは分かってるレンズ。
E-M1 Mark2との相性はまだ分かりませんが、撮るのが楽しみです。

まずは「オリンパスの女神」シリーズで、購入報告を。
ではでは。


★誤字脱字はそのうち直すかもしれません。脱稿に時間掛かり過ぎました(^_^;) 

オリンポスの女神 Xの称号2020年12月15日 22時36分


今年もそろそろ終盤。師走に入った。
振り返れば、自粛、自粛と騒がれた年だった。

仲間との写真撮影も、昨年末以来だし
まともにカメラを持って能動的に出かけたのって、紫陽花くらいじゃないだろうか・・・。

iPhoneの買い換えに伴い、ジンバル雲台的な「DJI OM4」なんてモノを買ったから
久々に定点観測地点、森林浴もできるこの場所へ。

<写真はイメージです>

秋も終わり、季節は冬に。

ハラハラと落ちてくる落葉樹。森のあちこちから、サラウンドの様にザワザワと音もする。

少し遠くには、鳥の声だろうか。このさえずりは、モズかしら・・・。


iPhoneとOM4で動画を撮影していたが、さすがに携帯の望遠では限度がある。

森の上空を探すが、その姿は見当たらない。


「野鳥撮影に興味があるようぢゃな?」

低いけど人懐っこい声音。これは何処かで聞いた声?


振り返ると、藍色の作務衣に頭には紺色の手ぬぐい。

その顔には、布製の青いマスク。しかも右半分には金色の刺繍で「志熊」の文字がっ。

しっ、志熊老師。ていうか、読者のみんなも、そろそろ出てくると思ってたよね?


「その板べっこでは撮れまいて」iPhone12Proを板べっこと呼ぶんじゃない。

「いや、撮ってた訳ではないんです」まあ、動画だけどな。

「うむ、撮るなら、長玉が必要じゃな」聞いてないでしょ、人の話。


おもむろにカメラを構えると、高い樹の上に向かって連写。

手にしているカメラはなぜか機種名もブランド銘も見えない。

車のFX機と同じ様に、ワザと消してあるのかな?


形はOM-Dにも見えるが・・・良く見ると、小さな車のキー形状の様なモノが。

「動くモノを撮るなら、長玉だけでなく、これも無いとな」と👇指さす老師。

「そ、それ、なんなんですか?」よせばいいのに聞いてしまった。


老師はニヤりと微笑むと機材背面の「OPEN」ボタンををおもむろにスライドする。

音もなくせりあがる機構の中にブルーのスクリーンと目標物を捕捉するであろう

○に+のマークが浮かび上がった。



「ドットサイトぢゃ」しみじみと語る老師。

 ん?聞いたことあるぞ。

「あ。エアガン持ってた時に買おうとしたヤツだな。

  Glock 26コンシールドキャリーにライトと付けたかったぁ(遠い目)」


一時期エアガンをアホみたいに買ってた時期があった。

でも、サバゲーやる訳じゃなく、ガスで動くリコイル・アクションにハマってたっけ。


そんな事は御構い無しに撮影に没頭する老師。カシャ、カシャシャシャシャ・・・

お、どうした今日は?

何かお薦めしてこんのか?


様子を伺っていると、ファインダーを覗きながら

ドットサイトも同時に視野に入れている感じ。いわゆる両眼視というやつか。


あれ、何やら呟いてる・・・。


「ターゲットスコープ、オープン。電影クロスゲージ明度20。対ショック、対閃光防御・・」


マスク越しにフガフガ喋っておられる様で、正直なんのことやら分からない。

あれだ、これ、やばい人だ。

そうっとその場からフェイドアウトしかける。


「ヤマトぢゃ」眼光鋭く、力強く、その言葉を言い放った。いや、その目でみないで。

「いやまだ注文してないですけど、配送は◎ガワよりはヤマトさんの方がいいです。あ、いやっ」

「ばっかもぉ〜おん」いつもの波平節が!

ああ、マスクしてくれてて、飛沫防止で助かったよ。


「波動砲を知らんようぢゃな」目を細めたな。莫迦にしてるな、これ。

「アンドロメダの拡散波動砲はイカしてましたね。白色彗星にすぐやられちゃったけど」

老師の瞳に嬉しそうな輝きが。

「あ、でも鳥はあんまり撮影しないんで」視線と話題をそらす。


「この作例はどうじゃ」カメラの再生モードからカワセミの餌取りの瞬間の画像が表示された。

「凄いですね。この機材で?」

「おおぅそうよ。これはなWebサイトに載ってたやつはでな」

あんた、それDLしたんかい。

相変わらず喰えないジジイだな(←失礼)


「鳥に興味がないか。では汽車は?車は?」汽車ってね、無限列車じゃないんだから。

「いやあ、あえて撮るなら競走馬ですかね」今年は緑のターフにすら行けんかったorz

「ほほう」しまった、誘導尋問だ。

「それでは決まりじゃな」いや買いませんよ。


ここから怒濤のお薦め攻撃かと思いきや・・・

「この先の神社に参拝するが良い」話題が変わってしまった。


「神社?」

「うむ、遷宮が決まってな。参拝できるのも年内限りぢゃ」

クルリと踵を返すと背中越しに軽く手をあげて行ってしまった。鼻唄を歌いながら。

「さらばぁちきゅうよお。たびだーつふねわあ ♪ 」

今日はやけにあっさりだったな。

老師の後ろ姿を見送ったら、お薦めされた神社に向かった。



しばらく進むと、前に来た感覚。

あのイベントを見逃した所ぢゃないかな。

『高千穂峰 御凜蓮神社奥宮』やはりあそこだ。


社務所らしき所に巫女さんがいそうだ。声を掛けてみる。

しばらくすると巫女装束の女性が。

真っ白いマスクに、金の刺繍で「麗華」の文字。

そのマスクどこで売ってるんですかい?


聞きたかったけど、遷宮について尋ねる。

巫女さんは静かに説明してくれた。

「今年の疫病の為に参拝の方も劇的に減りました。

元々街中から離れております故、神社としても厳しくなりました。

近隣の地権者がこの一帯を再開発することになり、神社自体の遷宮、

あるいはこの場所の建物の中に新たに社を残すかどうかの協議中でございます。」


再開発エリアなら実際にある話だけど、こんな場所でも?

経営の見直しから土地の譲渡に至ったのかも・・・だな。


「それは残念ですね。由緒正しき神社に見えますが。皆さんはどうされるのですか?」

「わかりません。ただ、ワタクシは元々研修に来ていた身ですから、

 多分そちらに戻ることになろうかと・・・。

 今年限りでございますので、ごゆっくりご参拝下さいませ。

 きっと何かしら見つけられる事もありましょう。」


丁寧にそう告げられると社務所に奥に戻って行った。

どこかで見た女性だな。名札には「NOCTI_42.5」の文字がチラリとみえた。

なんの記号だろうか。


社務所を抜け、奥に進む。

深々と蒼い水をたたえた池の中央に小さな島があり小さな建物がある。

その正中線を通る正面に鳥居⛩が。


賽銭箱はない。御神体はこの池そのものだろうか。

深々と頭を垂れ、二礼二拍手。

目をつぶると静寂に包まれる。


祈りを捧げている間、囂々と風の音。

遠雷らしき音も聞こえてきた気がした。


 立ちこめた霧の中、池の中央だけがぽっかりと晴れている。
 先ほどの島の所だ。
 青白い光。そして白い衣に包まれた女性が、腕で胸を抱くような形で静かに佇んでいた。

 「わらわを呼び寄せたのはお前か」いや、呼んでないです。召喚してません。
 このシチュエーション何度目だろう。懐かしい様な、でも今だ慣れない感じ。
 
 良く凝らして見ると、そのご尊顔には、朱色のマスク。
 そして金色の刺繍で『御凜蓮」の文字。おりんはす? 
 なんにせよ、感染対策はバッチリされている様だ。

「いえ、召喚はしておりません。遷宮されるとお聞きしたので参拝に」
「そうか。良い心がけぢゃ」

「あれから2年、お主の腕もある域に達したであろうな?」おもむろに身辺調査ですかい?
「あれからって、今年1年ほとんど写真撮ってませんよ、コロナ禍なんで(´ヘ`;)」
「えっくす」
 女神?様は胸を抱くように回した手を目の前に交差する。
  ゑ? また、スペシューム光線ですか?
「えっくす」・・なんだ、Xか。外国人と身振り手振りで会話してるみたいだな。
「・・・そのXが何か?」

 「2019年2月発売。LiveMOSセンサー2037万画素。ダブルTruePicⅧ搭載・・」
 さらに続く・・・
 「手持ちハイレゾ・ライブND・AFマルチセレクター・縦位置グリップ一体構造、そして・・」

「そして?」思わず引きずりこまれた。
「いまなら、なんと、1割8分の還元っ」どどーんと落雷が。
あのXが、なんと18%引きに?
友人(どこさん)と出かけたCP+で、モデル試写させてもらい
OM-D EM-1X+M.ZD12-100mmPRO の組み合わせは、意外にバランス良く、軽く感じたっけ。

でもな、あの筐体は大きいんだよな。
縦グリ一体はいいけど、ブサイクすぎる(←あくまで個人的な意見です)。

「気になってるであろう」
「な、なんで分かるんですか?」さては検索したな?
「お主のブラウザの びすけっと とやらをみたのじゃ」び、ビスケット?
「びす?えっ、なんですって?」

さっと懐から懐紙を取り出し、少し間を置いてから言い直した。
「お主のブラウザの「くっきー」をみたのじゃ・・・志熊のやつめ、字が汚いぞっ」
カートに出し入れしてたのバレちゃったな。

「ぷれみあむ会員なら、2割5分の割引じゃぞ」どどーん。さらに雷鳴が響く。
な、なんと25%?しかもあのXが15万円とは((;゚Д゚))ガクガクブルブル 
仮にマーク2をドナれば、実質10万円ぢゃないか!?。こ、心が揺れる。

「どうじゃ、今年限りの大盤振る舞いぞ。ここは1つ我が社(やしろ)復興のため、お布施を!」
大幣を持った両手を高々に掲げる女神? ていうか新興宗教ぽくなってきたな。

「うーん」
「うーんとな?まだ悩む事があろうか」押してくるな、今日は。生活が掛かってるんだろうか。
 
「いや、ですね。やはり私には宝の持ち腐れ。
 E-M1 Mark2がありますし、シャッターユニットを交換して1年。
 ほんとうに満足に写真撮影できてないんです。それにXは大きすぎます(きっぱり)」
 女神?からの誘惑をなんとか断ち切る。

しばらく目を閉じている女神?
瞑想しているかの様子だが、閉じた瞼の下で、目が動いている。 
 レ、レム睡眠か? ね、寝てんの(デジャヴ)? 

「みえるぞ、見えるぞ」え、なにが?
「数じゃ、数が見えるぞ」なんのことかな?
「お主の数字、9が見える」
「え、はい。誕生日月は9月ですけど」ま〜た検索したでしょ。個人情報保護ですよ。

「お主に問う・・「あると便利だけど無くても困らないモノ」とはなんぞや」
「え、なぞなぞですか? それとXとなんの関係が?」
「その大きさが問題なのであろう」
「ええ、まあ」
  
「1つの妙案が浮かんだぞよ」
「ある時はX。ある時はそなたのマーク2。さすればXと同じ取り回しになるモノじゃ」
「お、ああ、そうか。バッテリーホルダですね。前も買おうとして辞めてました」
さては、こちらも検索履歴をみたのか?
 
「9・・・HLD-9。お主のための番号が付いておる」こ、こじつけだな、こいつ。
「まあ、たしかに、これを付ければ操作的には、だいたい同じになりますね」
「そうよ。モノは考え方しだいじゃ。」満足げの女神? ていうか、買わせるつもりか?
「合体の暁には、Xの称号を名乗るが良い」いや、それは恥ずかしいです。

「あ、思い出しました。」1つ買わなきゃいけないものがあったよ。
「なんじゃ。いうてみよ」
「アイカップありますかね?」
しばらく、黙り込む、女神。胸を押さえながら、急に怒り出す。

「ざ、戯れ言をっ、そんな風に見えるかっ、この戯けものっ」なんで顔を赤くしてますの?
「え?eyeカップですよ。EP-13だったかな。ロックが壊れて、外れ易いので新調したいんです」
「あ、ああ。そちらの事か。うむ、あ、あるぞ。」なにと勘違いしたのかな?

必要なモノはそんなところだろうか。
神社もなくなるかもしれないし、ここは1つお布施するか。
  
「ところで、そのマスク、どこで売ってるんですか?」ちょっと聞いてみた。
「いや、皆さん素敵なマスクをされている様で。志熊、麗華、いろいろなバリエーションが・・。」
 社務所に売ってるなら、1つ購入したい。瑞光はないかしら。
「ひ、非売品ぢゃ。それに、手作りであるぞ」急にモジモジしたりして、意外だな。

気を取り直した様に、スッと直立すると、こう告げられた
「会員番号は34XXXXXX。お主の望みは聞き入れた。
 先ほど志熊からの伝達で、標準機(ドットサイト)もカゴに入っておるからな。」
 カゴってカートの事ですかい?

「え、知らない間にっ」老師め、道理であっさり帰った訳だ。
「これにてお主の望みをすべて聞き入れた。しかるべきお布施をぉ〜」

再び、天空から一筋の光が。
女神?さんが光の中に消えて行く。

「お主がその窓(←ファインダーね)を覗く時、我はそなたと伴にある。
 思いのままに撮るのぢゃ、撮れっ。思いのままにぃ〜」
ドラマ仁に出てくる「佐久間象山」センセみたいだな。

「May The Forthirds Be With You...Always...」
最後はオビワンみたいなセリフと伴に彼女は消えた。
 
 気がつくと、手を合わせたままの自分がいた。
 目をあけると、蒼い水をたたえた池が、陽の光に輝いていた。

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いよいよ、オリンパスからカメラ事業が切り離されると言う事で
オリンパス・オンライン(オリオン)も今年限りとなりました。

E-M1Xの導入も悩みましたが思い留まりましたよ。

ということで、最後のお買い上げはこちら。


数日して、ヤマト(爆)さんがお届け。

ついに、E-M1 MarkII-Xの誕生(爆)です。<ロゴに注目w>

果たして、このシリーズは如何に?
再び女神?さんや志熊老師にあえるのでしょうか。

ひとまず、お疲れ様でした。