麗香の里 <オリンポスの女神 番外編>2015年12月12日 23時00分


新しいコンデジ DMC-LX100を持ち出し、久しぶりに森に来た。
しかし、あの湖には近づくまい。

あの湖への道とは逆の方向へ。
これならあの女神にも、そして怪しい老師に会うこともないだろう。
新しいカメラの試写に専念できる。

紅葉の季節も終わり、殆どが枯れ山。
撮るべき被写体はほとんどない。
ただ、静かな時間と空間がそこにある。

枯れ葉を踏みしめながら、奥へ進むと、小さな畑の中に鍬を振るう老人がいる。
黒い作務衣に身を包んだ、屈強な体躯の持ち主。

軽く会釈しながら、畑の横道を過ぎようとした時だ。
「そこのおぬし」まさか、くも爺じゃって言わないだろうな?

「は、私ですか?」と、その老人の顔を見ると、あの老師?
「少し、話さないか?」
「あ、お久し振りです」間違いない、あの人だ。

「ん?」キョトンとしている。憶えてないんだろうか?
良く見ると、少し老けた様な感じもある。そうか、それでボケたんだな(←失礼)。

「数ヶ月前に、お目に掛かりましたよね? ほら、60mmのレンズもこう」
といって、E-M1に装着した、SIGMA 60mmF2.8を見せてみる。

「ほほぅ」自分とそのレンズを物色するかの様に、目を細める。
黒い作務衣には、やはり「志熊」と書いてある。間違い無い、老師だ。

「シ・グ・マ・・・志熊さんですよね?」
「そうじゃ、志熊じゃが、なんじゃ?」なんだやっぱりそうじゃん。
「いや、今日はこちらにいらっしゃるとは。あれ「瑞光」て今日は書いてないですね」

老人は、おもむろに畑の方を向くと、また鍬を入れる。
「・・・」って、シカトかよっ。今日はツレナイんだな。
「それじゃ、失礼します・・・」写真撮りに戻ろヽ(`Д´)ノ

「そこのおぬし」踵を返した私を呼び止める、老人。
「え、なんですか?ちょっと、忙しいんで」
「老師と呼びなさい」← そこかいっ

「老師じゃ、志熊さんじゃない」
「はいはい、じゃ、志熊老師。なんでしょうか?」結局、話したいんじゃん。
振り返ると、また鍬作業に戻ってる。なんだ、この人。

鍬を振りながら、こちらを見ずに、つぶやく。
「おぬしが会ったのは、弟じゃな」
「お、弟?」
「そうじゃ、弟に違いない。調子のよい奴だったろうて」
「は、はい。人なつっこい感じでした」積極的に小三元売りに来たからな。
「うむ。」・・・って、話が先に進まんないなあ。

あれ?
黒い作務衣の背中に、金色でなにか文字が浮き出ている。
「か、観音?」
この方は、どこかの高僧だろうか。こりゃ、失礼な事をしたかな。

「これか?」背中の文字を首をグイと回してみる仕草をして、ニヤリと笑う老師。
「ええ、どこかのお寺の名前でしょうか?」
「ま、そういうことかな」く、喰えない人だな。

「じゃ、先を急ぐので」立ち去ろうとすると、再び老師が声を掛けてくる。
「おぬしに、薦めたいモノがあってな」
て、またレンズを紹介するつもりでしょ。

「いや、ゴメンなさい。持ち合わせはないので」早々に退散だ。
「ほれ、これはな 20mm F1.4 DG HSMといってな。作例もすばらしいぞ」
「おおっ、これはっ・・・」広角域で、このすばらしい写真は・・・
「どうじゃ、ほれ、1本も2本も変わらんて。どうじゃ、1本?」
作務衣の中からレンズを取り出す。それって、ホカホカしてますやん。

しかし、レンズの黒い鏡胴を見ると、マウントが違います。
「そ、それって、マウントがキ◎ノンですよね?」
「いかにも。だから背中に「観音」と書いておるのじゃ」 それ、そのためですかい。

「いや、グラグラきますけど、私のカメラじゃ使えないのです。」
「そうか。では、このカメラはどうじゃ?」カメラも作務衣から?
「いや、結構です。さすがに、これ以上カメラは増やせないので」
「そうか、残念じゃな」

寂しげに農作業に戻る老師。すいません、折角ですが。
「ありがとうございました。失礼します。」
なんでお礼を言うのかわからないけど、撮影に戻ります。

「おぬし。」え、まだ何か?
「・・・そのカメラ・・・」私のDMC-LX100を凝視しています。
「はあ、新しいコンデジです。結構いいですよ」

「良いか、この先の奥には決して行ってはならぬ。」
「はい?」
「よいな、忠告したぞ。・・・麗香とは、クワバラクワバラ」

鍬を肩に背負うと、ぶつぶつ言いながら、畑の奥に消えていく老師。
「ちょ、ちょっと、どういう事ですか」呼び止めるのに、待ってはくれない。
ああ、行っちゃったよ。

ま、いいか。好きそうなレンズだったけど、マウントが違うんだから、ムリだよ。
さ、コンデジ撮影に戻ろう。

枯れ葉に覆われた道を進む。
沢を渡り、奥に進むと、急に開けてしまった。

ん? なんだ、里山だと思ったら、京都みたいな所に出たぞ。
地図にこんな場所があったんだろうか?
やはり、散策してみるものだな。

(写真は、京都花見小路。あくまで、イメージです)

小径を入ると、町屋風の建物が並ぶ。
「麗香」と書いてある店に目が止まる。
れいか?かな。これ何屋さん?

怖々中に入ってみる。
「いらっしゃいませ」
そこには、欧州系の美女がいた。なんと美麗な、しかも流暢な日本語で。

「あ、すいません。お店開いてますよね。」
「はい。Hallo」ど、ドイツ語?
「おお、Guten Tag, Fräulein」知ってる単語はこれだけだもんね。

「ここは何屋さん?」つまらない質問をしてしまった。
「麗香」て書いてあるんだから、舞妓さんとかいるのかしら。

絶世の美女は、LX100をチラリと見ると、どうぞあちらへと促す。
店の奥には、黒光りしたレンズとカメラ群が。是非、あちらを見てみたい。
どのカメラにも赤いマークが入っている。

「いえ、こちらは特別な方のコーナーです。」こ、断られた。
「え、見るだけでもダメですか?」
慇懃無礼じゃないか。買えないかもしれないけど、見せてよ。

「お客様は、あちらにお進みください」
有無を言わせない鉄壁な態度。しかたない、言われた通りに・・・。

少し低くなった潜り戸から、奥に進むと、黒髪の女性が現れた。

「いらっしゃいませ、ご主人さま」
「はいぃ?」いや、そんな店ですかいっ?
「いや、ここ何屋さんですの?」
彼女の着物には「野口」と名札に書いてある。

「お客様の希望の品物をご用意するお店です」野口さんがそう続ける。

「いや、野口さんね。そう言われても」
「・・・ノグチではありません。ノクチです」え、濁らないのね。
「ノグチさんじゃないのか、そりゃ失礼。」
「ええ、皆さん間違えるのです。」
「じゃ、このお店「麗香」て名前ですけど、何かそれと関係が?」謎は深まるばかりだ。

少し笑みを浮かべると、小さな声で私に告げる。
「お客様、レイカではありません。LEICAです」((;゚Д゚)) 変換ミスですの?

「んで?」
「お見受けした所、その【百式】をお持ちですので
 本日は、別の者が担当とさせて頂きますわ」って、何がですの?

しずしずと奥にノクチさんが消えると、その後、少し小柄な女性が現れた。

「お帰りなさいませ、ご主人さまっ」アニメ声ですけど、そういう店?
「いや、帰ってきた訳じゃなんですけど」・・・今日は登場人物が多いな
「百式、ご購入おめでとうございま〜す」あ、ありがとうございます。

「本日のお奨めは、これでぇ〜す」ガラスケースの上に、銀と黒のレンズが2本。
「あ、やっぱり、カメラ屋さんなんだね」
「ちがいま〜っす。」違うんかい。

「欲しいものを用意してくれる店なんでしょ」
「そうでございま〜すっ」つ、疲れるな。

「これ、何ミリのレンズなの?」
「15mm、F1.7ですっ。」
「15mmかあ、微妙な画角だね。もう少し他はないの?」
「14mm、20mmとありますけど、この店では扱ってませーんっ」
ニコニコしながら応対する彼女。

「いまなら、キャンペーン中ですっ」来た、またお布施の話か。
「はいはい、お布施でしょ。現金持ってないよ」もう百式(LX100)で無くなったよ(´ヘ`;)

「コンデジを1台、募集してまっす」コンデジ?
「はい。里子のモノなら、大歓迎です」
「サトコ?そんなメーカーあったけ?」
「違いまっす。リコと呼びますっ」て、リコーですかい?
「GRなら、ワンプライス買取中。詳しくはWebで検索。」
そう言いながら、指を動かすんじゃない。

そうか、15mmだけど、F1.7って魅力だな。
しかも、このお店だと14と20mmは手に入らないのか。
LX100も手に入れた事だし、彼女にGRを渡す事にした。


「お買い上げ、ありがとうございます。ご主人さま」
「じゃ、レンズを下さい」
「今なら、13:30までに店舗で受け取る様、手配いたしま〜す」
ちょ、ちょっと待って、GRは? レンズは?
店の奥に消えていく彼女の名札には「デイジー」と書いてありました。

しばらく、湖と反対側の里山にも近づかない事にしましたとさ。


※今回、この話は、相当フィクションです。

登場カメラ
1)Panasonic DMC-LX100(百式)
2)RICOH GR(里子:リコーね)

登場レンズ
1)SIGMA 20mm F1.4 DG HSM
2)LEICA DG NOCTICRON 42.5mm(ノクチ)
3)LEICA DG SUMMILUX 15mm(デイジー(爆))

ちょっと、苦しいストーリだったかな。(リクエストに応えましたw)

コメント

_ M2pict ― 2015年12月17日 00時03分

なげーw
(コメントは短いが一気読み)
特別な方のコーナーにニアミスでヒヤヒヤw

_ どこ。 ― 2015年12月17日 00時10分

今回も、笑わせて貰いました。発想力が凄いですね。
電車の中で読んでいたら、変な人と思われたに違いない。
危なかった。(笑)

まさか、志熊老師に兄がいたとは知りませんでした。
将来、兄さんがたくさん出てくるストーリーもありうるとか???
でも、次は麗香の野口さんに行っちゃうのかしら。

それとも、もっと怖い場所に、足を踏み入れちゃうかも。。。

_ 時計好き ― 2015年12月17日 00時24分

引き出しおおいな(笑)
本人も知らない兄がいたとはいやはや(^^ゞ
拳法漫画に付き物の生き別れの兄弟ではなさそうですが。
(いや道着じゃなくて作務衣だから!)

15mm購入の伏線がまさか京都にあったとは・・・よっぽどつれない対応だったんでっしゃろか(笑)

最後のデイジー・・・でいじぃ?デイ爺?・・・・ああ、DGかいぃ!と一人ツッコミ。

_ MOTO ― 2015年12月17日 21時31分

M2pictさん
なげーwですよね。自分も書いてて「終わらん」て思いましたもん(爆)
「特別な方のお店」なんですが、こちらだと銀座とか二子玉にあるはず。
私は、京都・花見小路店ができたばかりに、旅行ついでで覗きましたけど
開店間際だったからか、誰からも声を掛けてくれませんでしたよ(´ヘ`;)
やはり、上のお店同様「人を見ている」のかしら。

Typ109くらい持っていれば、少しは声掛けしてくれそうですけど
なにせ、LX100は、バッチレスですので。
そういう意味で、このフィクション店、パナライカは扱うので
14mmと20mmは扱ってないのです。

ZDのズミ25mmもいまだ持ってますが、ライカ銘を謳う点では
DG15mmもそこそこの描写をしている感じはあります。
(私は、本物を知らないけどw)

ということで、妄想ストーリーでした。

_ MOTO ― 2015年12月17日 21時53分

>どこ。さん
いや、書き進めていて、私も初めて知りました(;゚ロ゚)
どっちも凄い老師ですけどねえ。

志熊老師、LX100のレンズに「麗香」の文字を見た様子で
だから「近づいてはならぬ」と言ったとか言わないとか(どっちだい)。
たぶん、彼もLEICAをレイカと読んでいたに違いない。

_ MOTO ― 2015年12月17日 21時57分

>時計好きさん
ええ、もうね、ほとんど変換ミスネタ(笑)。
なんで「麗香」店のお姉さん達が
特にデイジーさんがあんな風になったかというとですね・・・

週末(まだUPしてない)に出かけた温泉宿。
食事所の給仕掛かりの新人さん(二人、女性)が
すごく接客がすばらしくてですね、声がアナウンサーの様。
特に、一人はメガネっ子で、声も、そんなお店風。
そこからイメージしちゃった次第(給仕されたのは和食ですけど)。

ま、前2話より苦しいネタでしたけど、楽しんで貰えたらなによりです。

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