オリンポスの女神 Mark22016年12月30日 23時33分

ようやく、今年も仕事納め、となった。
昨日は疲れちゃったから、爆睡しちゃって、貴重な時間が睡眠に消えた。

このところ、ちゃんと写真撮ってないな。
今日は少し時間があるし、いつもの定点観測、行ってみよう。

この時期にこの森に来ると、もうすっかり落葉している。
わずかに、モミジの赤い葉が残る樹もあるけど
寂しい雰囲気は、冬の到来を感じざるを得ない。

ザクザクと、枯葉が砕ける音をさせながら
小高い丘を越えると、すこし開けた場所。
そして、小さなカフェがある。古民家カフェかな。

こんな所に、こんな場所が?
少し躊躇うが、営業中の様子だ。

ちょっと寒いし、少し暖かいものを。
店の中に入る。

お客の姿はない。
奥のテーブルにつくと
着物姿の女性がメニューらしきものを持ってやってきた。

「え〜、珈琲か何か暖かいもの、ありますか?」
「はい。当店では、そうしたものは扱っていません」
「へ?」
とその顔を見ると、どっかで見たような・・・・((;゚Д゚))

名札を見ると「野口」と書いてある。
あ、どこかで、え〜と・・・
「どうかされましたか?」静かに女性が尋ねるので
「野口さん、どこかで会いましたよね?」と逆に尋ねる。

「野口? いえ、ノクチです」
あ・・・あの子だ。
そう、去年、「特別な方のお店」であった子だ。
「皆さん、間違えるのです」
「たしか『麗香』のお店にお勤めだったんじゃ?」そうだよ、あそこで会ったんだ。
「お客様、レイカではありません。LEICAです。」同じやりとりしたわ、これ(´ヘ`;)

「いや〜。その節はどうも。たしか15mmのレンズを・・」
と話を続けるも、どうも少し気が晴れない雰囲気だ。

話題を変える。
「え、ここで何を?」
「今はこちらで働いています。なかなかお客様がいらっしゃらなくて。」
「そうですか。やはりココもレンズ屋さんなんですか?」

「今は、お給料に見合った働きをしなければと思っています」
伏し目がちにお話ししてるけど、全然、話噛み合ってないわ。

「お給料?やはりこういうお店だと、場所も場所だけに、大変ですよね」
こんな所で、商売なんて、どういうマーケティングしてるんだろう。

「ワタクシの使命は、費用対効果。お客様が満足する画質を提供する事ですわ」
変な会話になってきたぞ。
「お客様は、ワタクシに興味をお持ちですか?」
なんと、単刀直入。配偶者がいるPROのおじさんになんという誘い文句だ。

「え、まあ、き、綺麗な方だなと思いますけど」
あの時見た、あの黒髪は、窓から差す光りに今も輝いている。

手にしていたフォトブックを開いて見せる。
「単焦点、42.5mm、F1.2。Nokt-というのは「夜」を意味する言葉ですわ」
なんだか妖艶だぞ。
「は、はい。綺麗な写真ですね。こんなレンズで君を撮影したら、素敵かもね」
「ええ、「夜」も、期待にお答えします」ま、単刀直入ぢゃないかっ。(たぶん夜の撮影の意味ね)
こ、これは、まさかの愛田人子・・・愛人のお誘いじゃないのか? 

困ったぞ、こんな誘い、受けた事がない。
「いっそ、結婚しませんか?」おおお、剛速球キター。
「ど、どういう事ですか?また唐突に。お、おじさん、勘違いしちゃうよ(^_^;)」
PROのおじさんにも出来る事と出来ない事はある。

「いえ、契約という名の結婚です。
 お客様は、必要な費用を提供し、ワタクシはお客様の満足を提供します」
ん?どっかで聞いたような台詞。 まさか某TブーSのガッキーのドラマで聞いたやうな??

「いや、ちょっと、む、ボクにはムリです」ヒラマサくんよろしく
カバンと股間を押さえつつ、慌てて店を出る。

出口から外に出るときに『麗香の店 密林支店』と書いてあった気がしたけど
一目散に、先ほど来た道を引き返す。これじゃ、写真どころじゃなかった。

ちょっと道を外れてしまったのか、また里山エリアに来てしまった。
少し嫌な予感がする。もう誰にも会わない様に、帰ろう。

と・・・少し行くと
「そこのおぬしっ」まさか、くも爺じゃって言わないだろうな?

やばいこの声、聞いた事がある。
足早に立ち去ろうとすると、また声が。
「わしじゃ」ていうか、確認したく無いんですけど。

サッサッと歩く私を、あっと言う間に抜き去ると
その背中には「瑞光」の文字。し、志熊老師?

「し、志熊老師?」声を掛けても、黙々と前を歩いていく。
え、声を掛けたんじゃないのかいっ。抜き去っても先に行くってあなた。
「お、おお。誰じゃ」誰って、疲れるな、この人。

「おお、お前か。いつぞやか・・忘れた」わすれたんかいっ。
「ええ、レンズをお布施と交換したモノです」
「そんな事もあったかいな(遠い目)」でも、どうでもよさげです。

「今日はな、いい話があるぞ」懐に手を入れて、もぞもぞしている。
「や、いいです。今日は。さっき、変なお店で(ゴニョゴニョ)・・」

老師の目が光る。なにかを悟った目だ。
「おぬし、あの「麗香」の店に行ったな」断言するかの様な口ぶりで、つぶやく。
「・・・」
「我が兄も、日頃から「近づいてはならぬ」と言っている店じゃ」
「いや、危ない所でした。とても綺麗な子でしたから」
「そ・こ・が・クセものじゃ。危うくワシも・・・」
急にフェイドアウトとは、じいさん絶対あの店に行ったな?

「以前30mmのレンズをお布施と交換したと思うが新作があってな。」話そらしたな。
「いや、30mmはもう、F2.8があるので大丈夫です(^_^;)」
「なんだ、ツレナイ奴じゃな。」

あれ、今日はしつこくないぞ。
「それより、凄い噂を聞いた」
「なんですか?」
「知りたいか?」
「知りたいです」
・・・・・・
「で?」
「ん、なんじゃ?」
「いや、だから、噂って」
「おお、そうか。今日の酒の肴を考えておった」喰えない人だよ、相変わらず。

急に真顔になって、話はじめる。
「このワシでもな、最近は少し手が震えるんじゃ」
「そうなんですか。カメラの撮影とか大変ですよね」
「うん。酒を飲まないとな、なかなか手の震えが止まらん」て、あんたアル中でしょ。

「それがな・・・そんな震えをピタリと止める長玉があるそうじゃ」
「アル中の震えをピタりと止めるなんて、凄いですね」
「ば、ばっかもーん」おお、出た、波平風。

「ちがうぞ、ちがうぞ。これまでに無い、神の技という事じゃよ」
「それはどこに行けば?」
「わからぬ。ワシの知っているのは、そこまでじゃ。一度震えを止めてみたいのぉ」
と少し寂しげに、老師は去っていった。今日は、諦めが早くて良かったよ。

さて、いらん時間を潰しちゃった。帰ろ。
て・・・周りを見渡すと、霧が。

寒い所に暖かい空気が流れ込んで来たのかな。
思いの外、歩速が落ちるし、前が見えないや。

気がつくと、青い湖のほとりに出た。
静かに聞こえる音、何? シャッター音?

上品な、感じ。
私のE-M1とは、根本的に違う感じだ。

霧の中から、突然、カメラを下げた女性が現れた。
「はっ」
「おっ」
お互いに驚く。そりゃ霧の中だもん。

「驚かせて、ゴメンなさい」意外にも丁寧な口調で彼女は告げた。
「い、いえ」その聡明な感じに、警戒心がほどける。

「写真撮影ですか?」つ、つまらん質問をしてしまった。
「え、ええ。新しいカメラで試し撮りに来たのだけど、天気が急に悪くなってしまって」
少し残念そうに、空を見上げる彼女。

「いや、そうですよね。私なんて、新しいカメラとかレンズを買うと、いつも雨ですw」
「今日はお天気と聞いていたのだけど、そろそろ上がらなくちゃだめかしら」
もう、諦めて帰る様子だ。

「私も、もう帰る所です。下までご一緒しましょう」
「ええ。」

青い色に白文字メーカー名のストラップ。
β版の機体なんだろうか、有名なカメラマンかもしれない。
そんな事を思いながら、彼女の背中を見て、後を付いていく。

そうだ、折角写真を撮りに来たんだから、彼女の後姿を拝借しよう。
カメラをカバンから出し、構える。

その間に、少し先をゆく彼女。
霧の中に消えゆく姿を捉える。少しISOを上げた方がいいかな。

フっ・・・彼女の姿が完全に消えた。
あ、あれ?どこに?
構えたカメラを下ろし、追いかける。

ど、どこにもいない。
道だと思っていた所は、細い堤のような場所。
周りは、湖じゃないか。

湖面に広がる大きな波紋。
え、まさか、落ちてしまったのか?
「おーい。大丈夫かっ」こんな所で遭難って、どうやって探したら?

5分経っても10分経っても、霧が晴れる様子がない。
まずい。何かあったら、どうしよう。
さっき会ったばかりの方だけど、どうすべきか?

時間が止まる。思考も止まる。途方に暮れるとはこういう事だ。

先ほどから見ている湖面に、気がつくと1筋の光りが見える。
その瞬間、青と白いベールに包まれた女性の姿が?

え、さっきの女性?
違う、あれ、どっかでお会いしましたよね(と私のゴーストが囁くのよ)。

「女を突き落としたのはお前か」霧の中で、幾筋かの光芒が光る。
「ち、違います。たぶん、湖に落ちゃたんじゃないですか?」どう言う言いがかりなんだ、この人。

少し疑う様な目でこちらをしばらく凝視すると、女神はこう言った。
「彼女を助けたいか?」
え、どういう事ですねん?
「いや、さっき知り合ったばかりですし。お名前も知りませんけど」
「構わぬ。助けるか助けないのか?」相変わらず、強引な女神?さまだよな〜。

「えっとー、彼女は無事なんですよね」
「そうじゃ」
「じゃ、後はよろしくお願いします。」
「お、おぬし、なんという奴じゃ、この人でなし」そりゃ酷い言われようだなあ。

「分かりましたよ。んで、どうすんですか」ちょっとふてくされた態度になっちゃったよ。
「うむ。お布施じゃな」ほうら来た。

「いや、お布施は、新しいカメラを買うために撮ってあるので、ご勘弁を」
「むむ。あのおなごがどうなっても良いのか?冷たい奴じゃ」
「いや、私がヘルプするのは良いですけど、なんでお布施なんですかね」
そりゃ、さっきの話じゃないけど、費用対効果は求めます。

「・・・アレは、私の分身じゃ。」なんで少し顔を赤らめますの?
「へ?」
「助けてやってくれ。きっとそなたの役に立つであろう」
いや、愛人の話はさっきお断りしたんで。
「いや、倫理的に大丈夫ですか?」いちおう、社会人なんで。
「うむ。この場合は、大丈夫じゃ」なんだか分からないけど、断言してるわ。

ほんじゃ、しょうが無いや。
「むう。助けるのは良いですけど、私からもお願いがあります」一応、下手にでておこう。
「うむ。」考えなくもなさげだ。
「そうだな。レンズがいいな。レンズをください」単刀直入に言ってみた。

しばらく目をつぶる。瞑想しているかの様子だが、閉じた瞼の下で、目が動いている様子。
レ、レム睡眠か? ね、寝てんの?
「25mmF1.2」女神は厳かにそして静かに語った。

「えっと、すいません。25mmのF1.4なら、パナのもってるんですよねえ」
「た、戯けもの。そして、浮気者め」また、雷鳴が轟く。
「いや、そんな。ずいぶん前ですよ、購入したの。」たしかE-30の頃だよ。

「なんにせよ「麗香」の手のモノじゃ」あ、この人もレイカって言ってるわ。
といいつつも、しばらく考えている様子だ。

「あの。手の震えが止まる、神の技をもつモノがあるとお聞きしました」
すると、目を大きく見開き、彼女はいう。
「そ、それをどこで?」知られてはいけないと言わんばかりに。

「ある方から聞きました」いちおう、情報源は伏せておかないと。
「志熊の奴め」唇を噛みしめながら、遠くを見る。バレてんな完全に。

「・・・残念ながら、在庫はない。」ざ、在庫っていいましたか?
「いや、じゃ噂は本当なんですね。」誘導尋問に掛かったな。

「ホントに、ないですか。1本も?」なければ、諦めろという事だよな。
「ちょっと待つが良い」おお、またREM睡眠状態。

「む。むむ。ある、その姿が1つだけ見えるぞ」
「え、あるんですか?」

「しかたがない。特別じゃぞ」良く分からないけど、成立したみたいだ。

「会員番号は34XXXXXX。そなたのお布施により、今より我が化身はすでに里に向かった。」
ありがたい、伏せ字にしてくれたな。今回も、個人情報は保護されている。
「彼女の名前は、マーク2と呼ぶがよい。」なんていうすばやさ。

「は、ありがたき幸せ」まあ、お布施払ったしな。
「そして、長きにも短きにもなる、神なる技を持つ鉾の様な硝子をおお」演出が過ぎるな。
湖を中心に、霧が渦巻いていく。女神の姿も消えていく。

「そ、そのレンズの名前は!!」思わず確認してみた。
「手ぶれ補正はどちらも使うがよいぃ〜」女神の声はかき消えていく。

霧が晴れ・・・周りを見渡すと、もう里に降りていた。どこに今までいたんだろう。
手には、黒く光る箱が。

ということで、マーク2到着の後
まさかのレンズがウチにきてしまいましたとさ。


登場カメラ
1)OM-D EM-1 MarkⅡ

登場レンズ
1)LEICA DG NOCTICRON 42.5mm(ノクチ)
2)SIGMA 30mm F1.4 DC DN MFT Contemporary(志熊老師の懐)
3)M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO(25mmのやつ)
4)M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO(手の震えをおさる神の技レンズ)

※おまけ
TブーSのドラマ「逃げる恥だが役に立つ」パクリの件。
久々にカミさんとハマって見てたけど、9話の後半と最終回で、台無しにしちゃったよな〜。

◎HK「LIFE」で活躍していた星野源くん。紅白にも出るけど、ホント演技がよかった。
ガッキー(新垣結衣)も、こんな上手い女優さんだったと改めて認識。
ただ、最後の最後に脚本がorz。やっぱり、世相を反映しちゃったかな・・。